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5.時代を移植する

団体名 信濃設計研究所 / nano Architects

「山王マンションと私」01:約11年前、2004年、出会い
[信濃設計研究所 / nano Architects:山王マンション305号室]

今では福岡を代表するリノベーション・ビンテージビルとして日本中(世界へも)に知れ渡っている山王マンションですが、私が初めて出会った10年前は、こんな感じの賃貸マンションでした。
2004年2月24日の山王マンション見学報告書を特別公開。

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「山王ネオデザイン賃貸マンション」見学報告書

● 外観・中庭
これはオフィスビルではないのだろうか? 時代を感じさせるタイル・・・これは「福岡天神ビル」 (1960) と同時代のタイルだ。水平横長窓、バルコニーはない。1Fは店舗・・・やはり、オフィスビルといってもいいような外観。車が駐車場に入ってゆく・・・中庭だ。廊下が中庭に面してあり、南に面したところは部屋となっている。廊下には物干しロープがはられている。これは、まさに集合住宅。
中庭を中心としたコの字型プラン、片廊下型、都市の中にも快適な居住空間を作ることを意図した都市型集合住宅の典型的な配置。中庭に面した片廊下は、外観とはまるで違い、居住者の生活感があふれている。外側はオフィス風のすました外観、内側の中庭は居住空間としての人間くささのあふれた空間、つまり、生きた空間となって、建築と人との密接な関係を教えてくれている。吉原さんにお伺いしたところ、この建物は1967年の完成ということで、私と同じ年の建物だったのだ。あらためて「時間と建築」について考えさせられた。建物の完成から37年後、21世紀の現在、果たしてこの建物の設計者は、どのような21世紀の街並み、都市、そして、日本を想像していたのだろうか?

● 1階から廊下へ
中庭からいったん外に出て1階まわりを見てみると、昔ながらの質感・光沢をはなつアルミサッシ、角が丸められた足もとまわりにはモザイクタイルが張られている。現在、リバイバルで、はやっているデザインだ。入り口から中へ、エレベーターの動きも時代を感じる。廊下には配管が露出し、手摺の鉄は錆が出ているが、21世紀の現在において、感覚は逆転し、「時間」のみが造ることのできる熟成された無機質素材が、現代アート空間をつくりあげている。

● リファインされた室内へ
重厚な鉄の扉を開けて中へ、天井が張られておらず白ペンキが塗られている。狭い幅のガタガタが連続する天井、これは・・・床スラブは今ではほとんど見られない小幅板のコンクリート型枠で造られていたのだ。可塑性というコンクリートの性質を利用した、適度に暴れた型板の小幅板が醸し出す彫刻的な表情が、今回のリファインにより、21世紀の今、よみがえった。床は無垢のパインフローリング。フシのある無垢のパイン素材は表情あふれる天井に負けず劣らず存在を主張している。壁はクロスではなく塗装なのがうれしい。室内建具はポリカーボネイトのツインカーボ、細いアルミ枠でシャープに納まっている。素材の存在感を表現している上下の水平面(天井と床)を、現代を代表する素材であり半透明の軽いポリカのツインカーボが屏風のように空間を分割している。コンクリート・木・ポリカーボネイト、という時代を超えた、全く性質の異なる素材が、主張し、そして、調和し、現代を表現した室内空間を造り上げている。

● 空間分割
ワンルームを基本にした空間構成で、ポリカの引き戸と、キャスター付の収納で空間を分割して使用するという考え方の間取り。様々な利用方法に対応できるとともに、狭さを感じさせない方法でもある。素材そのものを生かした壁・床・天井は、存在を主張しながらも「背景」となり、どのような家具をおいても絵になる。選定されたモデルルームの家具はノスタルジーを意識した、モダンなデザインとなり、「未来」を感じさせる。「未来」を最も表現したのが20世紀であり、60年代がその頂点であったといってもよい。現在ではその「未来」が「ノスタルジー」となるという相反する意味・感覚となっている。

● リファイン → 新しい建築デザインの創造
今回の「山王ネオデザイン賃貸マンション」を見学させていただき、新たな可能性を見つけだすことができました。現在の主流である日本の「賃部屋文化」は、素材感を排除したフェイク空間となっています。それは、敷金・礼金システムと、入室時には新しくきれいな部屋でなければ借り手がつかない、という国民性などが、主な原因となっています。素材を大切にしてきた日本の伝統は否定され、「表面的なきれいさ」が求められました。しかし、21世紀に入り、感覚の逆転をもたらしました。今回の「山王ネオデザイン賃貸マンション」がその一例です。それぞれの素材感を最大限に生かした材料の利用と、ワンルームを基本とした、使い方を制限することなく楽しめる間取りが、借り手にも受け入れられる時代となったのです。
貸し手と借り手と契約内容=「ソフト」と、デザイン・施工=「ハード」が、一つのシステムとして、成立するとき、いわゆる「新しい建築文化の創造」となるわけです。
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この報告書は、山王マンションで初めて行われた福岡初のリノベーションルームを見学させていただいた後に書かせていただいたものです。当時「リノベーション」という言葉は誰も知らない状態でしたので、「山王ネオデザイン賃貸マンション」と名付けられていました。懐かしいです(笑)
約11年前の2004年、この時から「リノベーションとは何か?」を考え始めました・・・

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