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5.時代を移植する

団体名 信濃設計研究所 / nano Architects

「山王マンションと私 02」2004年、初めてのリノベーション
[山王マンション305号室:信濃設計研究所 / nano Architects]

●2004年リノベーション黎明期、山王マンションでのプロジェクト名は「山王ネオデザイン賃貸マンション」や「山王マンションリファインプロジェクト」など、「リノベーション」という言葉は利用できませんでした。なぜなら「リノベーション」といっても、誰もなんのことかわからなかったからです・・・

「リノベーション」という言葉が全く通じず、半疑問形で聞き返された頃、プロジェクトの名前を付けるのも大変でした。「リノベーション」という言葉が通じないので、前時代とは明らかに異なる先進的な取り組みを、当時一般社会で浸透している言葉の中から選び、表現していくしかなかったからです。
私のようなデザインしかしない立場の人間にとっては、世間に通用する/しないは関係なく、かっこいい言葉で名付ければいいではないかと考えてしまいますが、借り手が付かなければ死活問題となるビルオーナーさんにとっては、「リノベーション」という聞いても誰もわからない言葉の入ったプロジェクト名で本当に借り手がつくのかどう不透明状態での事業進行は大問題です。

こういった状況のなかで、ひとつの目標が生まれました。「リノベーション」という言葉が通じないならば、これからの日本において必然的に進むべき本流文化となる「リノベーション」という「文化自体」を広げていこう、ということです。実は、吉原住宅/スペースRデザインさんで継続的に取り組まれていることは、単なる自社物件の空室対策だけではありません。「リノベーション文化」を福岡の地に広め、価値多き古いビル=ヴィンテージビルを大切に使い続けるという「ヴィンテージビル文化」を日本で当たり前のことにしていこう!という文化的社会活動でもあったのです。(それは、今で言うところの「ソーシャルビジネス」につながります。)

ちなみに今回2回目の「福岡DIYリノベWeek2015」も開催趣旨は同様です。広域にわたる12のリノベーション見学スポットでの取り組みは、今や社会問題化している800万戸を超える空き家、空室活用に大変有効な解決手法となります。このイベントは、このような実践の場を実際に見学、体感することによって、社会問題化している空き家、空室問題を少しでも解決していこうという実践的提案イベントです。そして、「福岡DIYリノベWeek2015」は、現在、急速に広がりつつある「DIY」をキーワードに、これからの生活空間は自分たちで作っていこう!という時代精神を表現するイベントでもあるのです。

●山王マンション502「古梁の部屋」2004年初めてのリノベーション
「リノベーション」という言葉が全く通じず、半疑問形で聞き返された頃、始めてリノベーションをさせていただくことになったのですが、いったい何をデザインすればよいのか分かりませんでした。この時、3室のデザインをさせていただいたのですが、その中の一部屋に「古梁の部屋」があります。今振り返ると、この部屋を見学された方々の生の反応を体感できたことが、後の私のリノベ作品に大きな影響を与えたようです。それは、圧倒的存在感のある「野性味あふれる素材力」が空間を支配するということです。

他の2室とは異なり、この502号室は和風テイストの部屋にしました。古材の梁3本、欄間、竹などを活用したのですが、想像以上に空間全体を圧倒的な存在感で支配してしまったのが「古材の梁」つまり「古梁」です。
ところどころに入った深く大きな荒々しい「割れ」、そのまわりに無数に入った細かい「ヒビ」、黒光りした「肌理」。一体何年樹木として生きてきて、一体何年建物の梁として生きてきたのだろう・・・ここまでたどり着くまでの想像もつかない時間の長さ。木は、時間の経過によって変化していく素材です。よって生きてきた時間の長さによってのみつくることができる存在感というものが出てきます。「圧倒的存在感」、これを見学された方々はこの圧倒的存在感に心を全て奪われていました。想像もつかない時間の長さが「圧倒的存在感」を作り出しているに違いないと思いました。「時間を経てきたものは、それだけで存在価値がある」
老朽化して価値などないと見えたとしても、もう一度視点を変えてじっくり見なおしてみると、それらは大変価値の高いお宝空間であることがあります。それらを活用してこその「リノベーション」であり、「リノベーション」でしかできない空間である、ということがわかりました。

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